カップ麺(かっぷめん)とは、公正競争規約上の正式名称を “即席カップめん” といい、食器として利用できる耐熱性の容器に乾燥めん、あるいは生タイプめんを収め、かやくや添付調味料(スープ、たれ、ソース)などを同梱した、日本が誇る加工食品の一つである。——などと堅苦しい解説は必要ないくらい、その単語を聞けば複数の商品がパッと思い浮かび上がってくるでしょう。
いわゆる “インスタントラーメン” の元祖は、東明商行の張國文氏が大阪で販売していた「長寿麺」あるいは大和通商の陳栄泰氏が東京で販売していた「鶏糸麺(ケーシーメン)」という説が有力で、実は日清食品(当時の社名はサンシー殖産)の「チキンラーメン」ではないのですが、世界初のカップ麺「カップヌードル」を発明したのは紛れもなく安藤百福(日清食品の創業者)その人。
日本で初の商品化を果たし、今では簡易的な食糧として世界各地にも普及しているカップ麺ですが、切っても切れないのが小麦をはじめとする原材料の高騰で、2022年6月1日(水)の出荷分より、まるか食品を除く殆どの即席めんメーカーが希望小売価格の改定を実施したのは記憶に新しいところ。しかし、またもや各社から「値上げ」に関する発表が相次いでいます。
カップ麺の価格改定について(令和5年)
昨年(令和4年)2月3日に口火を切った流れと同様に、2023年(令和5年)の「即席カップめん」に関する “価格改定のお知らせ” を最初に発表したのは日清食品で、昨年の価格改定からジャスト1年後となる6月1日(木)出荷分から実施とのこと。値上げの理由は、以下の通り。
昨今、原材料や包装資材の価格高騰に加え、エネルギーコストも大幅な上昇が続いています。
価格改定のお知らせ ~2023年6月1日(木)出荷分から~|日清食品株式会社
こうした厳しい環境のもと、弊社では全社を挙げて効率化・合理化を進め、可能な限りコスト削減に取り組むことで、製品の安定供給、安全で安心な品質の確保、そして製品価格の維持に努めてまいりました。
しかしながら、自助努力だけではコスト増を吸収できない状況となり、やむを得ず2023年6月から製品の価格を改定することといたしました。
カップ麺の主原料でもある小麦粉の高騰は、2021年(令和3年)夏の高温と乾燥を理由に、アメリカやカナダで起きた不作による影響が強く、国際価格そのものが高水準で推移。なおかつ日本が求める品質に達した小麦粉の調達価格帯や海上運賃の上昇、さらに為替が円安傾向で推移した問題も重なるなど、諸々の理由で昨今の値上げラッシュに繋がったのですが、もちろん小麦粉だけが原因ではありません。
たとえば2022年11月14日にヤマト運輸が包装資材を値上げしたように、世界的な注目を集めている原油価格の高騰もカップ麺の価格改定に関わっている項目で‥‥というか、カップ麺に限った話ではないんですけど、ひとまず値上げについては受け入れざるを得ないため、以下に各社の値上げ率を(現段階で把握している限り)まとめてみました。
日清食品株式会社
日清食品が価格改定の対象としている製品は、即席袋めん・即席カップめん・即席カップライスの計3項目に分けられており、そのうち「完全メシ」シリーズは “値上げの対象外” となっているのですが、以下のブランド・シリーズをはじめとする全商品の約8割(約170品)が対象とのこと。
即席袋麺 | 「チキンラーメン」シリーズ(レギュラー、Mini) 「0秒チキンラーメン」 「チキンラーメン サラダ」シリーズ 「日清焼そば」シリーズ(レギュラー、大盛) 「出前一丁」シリーズ 「日清ラ王」シリーズ 「日清極楽ラ王」シリーズ 「日清のラーメン屋さん」シリーズ 「お椀で食べる」シリーズ 「日清これ絶対うまいやつ♪」シリーズ 「日清爆裂」シリーズ 「日清マグヌードル」シリーズ 「アンパンマン」シリーズ など |
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即席カップ麺 | 「カップヌードル」シリーズ(レギュラー、ミニ、ビッグ) 「カップヌードルPRO」シリーズ 「あっさりおいしいカップヌードル」シリーズ 「日清のどん兵衛」シリーズ(レギュラー、ミニ、特盛) 「日清の最強どん兵衛」シリーズ 「日清のどん兵衛 ソルトオフ」 「日清のあっさりおだしがおいしいどん兵衛」シリーズ 「日清焼そばU.F.O.」シリーズ(レギュラー、プチ、大盛) 「日清焼そばU.F.O.ペロリ」シリーズ 「チキンラーメンどんぶり」シリーズ(レギュラー、ミニ) 「出前一丁どんぶり」シリーズ 「日清ソース焼そばカップ」シリーズ 「日清麺職人」シリーズ 「日清ラ王カップ」シリーズ 「日清デカうま」シリーズ 「日清麺NIPPON」シリーズ 「日清ミニーズ」シリーズ 「日清のとんがらし麺」シリーズ 「日清の江戸そば」「日清の京うどん」 「アンパンマンカップ」シリーズ など |
即席カップライス | 「日清カレーメシ」シリーズ(レギュラー、ミニ) 「ぶっこみ飯」シリーズ 「日清オシャーメシ」シリーズ など |
価格改定率はメーカー希望小売価格(以下、税別表示)の10〜13%アップとなっているため、2023年3月現在は214円としているレギュラーサイズの「カップヌードル」は “236円” に、ビッグサイズの「カップヌードルBIG」は245円から “271円” に、ミニサイズの「カップヌードルMINI」は128円から “142円” に、安価な「あっさりおいしいカップヌードル」も138円から “153円” に値上げ。
また「チキンラーメン」も袋麺は1食あたり123円から “136円” に、5食パックは615円から “680円” に値上げされ、カップライスの「カレーメシ」も242円から “268円” に引き上げられるなど、個人のヘビーユーザーやオフィスに備蓄している企業も大きな打撃を喰らうことになります。2023年6月1日以降は上記の変動後価格が基準になるため、金銭感覚を調整しなければいけません
明星食品株式会社
明星食品が価格改定の対象としている製品は、即席袋めん・即席カップめん・即席カップスープの計3項目に分けられており、価格改定の理由は親会社である日清食品と同上。価格改定率はメーカー希望小売価格の9〜12%アップということで、日清食品よりも若干ながら少ないパーセンテージとなっているのですが、以下のように価格が変動します。
5食パックの袋麺は680円に、レギュラーサイズ(214円)のカップ麺は236円に、ビッグサイズ(245円)のカップ麺は271円に値上がりする、というのは日清食品と共通の変動率。それ以外の価格帯に位置する製品についても細かに公表してくれているので、上記の表を見ると感覚が掴みやすいです。ただ、ひとつ気になるのが「オープンプライス」の製品について。
即席カップめん業界におけるオープンプライス(オープン価格)の製品は、おおむね安売り用の廉価版であることを意味し、それらにメーカー希望小売価格は設定されていないのですが、明星食品のオープンプライス製品における出荷価格改定率は10〜14%にアップとのこと。これによってスーパーやドラッグストアでの販売価格も変動するため、税込10〜20円の値上げは覚悟したほうがいいかもしれません。
東洋水産株式会社
東洋水産が価格改定の対象としている製品は、マルちゃんブランドの即席袋めん・即席カップめん・即席ワンタンの計3項目に分けられており、価格改定率はメーカー希望小売価格の10〜13%アップとなっているのですが、前述の日清食品や明星食品と同様の価格変動です。
またオープン価格の製品についても出荷価格改定率を9%〜10%アップとなっているため、こちらも同様に販売価格が底上げされることを覚悟しておいたほうがいいでしょう(店舗によっては努力してくれると思いますけどね)
まるか食品は値上げするの?
ほかにもサッポロ一番のブランドで知られるサンヨー食品は10〜11%(オープン価格製品は9%〜)、その子会社であるエースコックは8〜13%(オープン価格製品は10%〜)、寿がきや食品は5~15%、ヤマダイ(ニュータッチ)は5~11%、徳島製粉は12~15%、マルタイは5~12%(オープン価格製品は5%程度)、テーブルマークは約12%、イトメンは10〜11%アップと公表済み。
2023年3月5日現在、大黒食品工業とサンポー食品(2023年3月6日 12時〜公表予定)は価格改定率を発表していませんが、昨年3月吉日に “ペヤング製品価格据え置きのご案内” を発表した「まるか食品」の動きが気になるところ——。(サンポー食品は約10~12%アップ ※2023年3月6日追記)
拝啓 時下ますますのご清祥の段、大慶に存じ上げます。
ペヤング製品価格据え置きのご案内|まるか商事株式会社
平素はペヤング製品に格別のお引き立てを賜り、心より厚く御礼申し上げます。
さて、昨今の世界的な経済情勢を考えますと、原材料価格の高騰に加えてあらゆる資材価格の上昇が進んでおり、今後もますますの高騰が予測されるところで御座います。
弊社といたしましても製品価格の改定を幾度となく幾度となく検討してまいりましたが消費者様の願望にお応えできるよう、先ずは社内にてすべての工程の見直しを行い、徹底したロス削減・徹底したムダの削減を実施し、全社員が一丸となり目標値を達成することを決めさせていただきました。そして企業努力の向上によって、生産の効率化を図り、できる限りの見直しを実施することで、コスト削減に全力で取り組むこととし、しばらくの間は価格を据え置くことを決定いたしましたことをご案内させてい
ただきます。
弊社では今後も安心で安全な製品を全国のお客様に安定的にお届けさせていただきたく全力で努力してまいります。今後とも引き続き、お得意先様におかれましては力強いご支援と寛大なご理解を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。敬具
昨年に各社こぞって価格改定の発表を実施した際、生産工程の見直しによるコスト削減を徹底することで、原材料の高騰や資材価格の上昇に伴うマイナスを吸収できると判断し、当初は “しばらくの間” ペヤング製品の価格を据え置くと公言していたのですが、2023年3月5日現在まだ「ペヤング ソースやきそば」のメーカー希望小売価格は193円(税別)から変わっていません。
とはいえスポット商品では214円(税別)としているため、今後は数量限定の変わり種のみ236円(税別)とする確率は高く、今度の価格改定を機に「ペヤング ソースやきそば」のメーカー希望小売価格を改定するパターンも否定できない展開。ある意味 “ここが最後の砦” みたいなところがあるので、発表が確認でき次第追記します。
カップヌードルの内容量と販売価格の推移
というわけで、上記のように2023年6月1日(木)出荷分から各社の即席カップめんにおけるメーカー希望小売価格が全体的にアップします。ちなみに世界初のカップ麺「カップヌードル」について、当初 “いくらで売り出されたのか” ご存知でしょうか。
カップヌードル(CUPNOODLE)が初めて発売されたのは、現在を遡ること50年以上、1971年(昭和46年)9月18日の話。まだ袋入りのインスタントラーメンが25円〜35円で取り引きされていた頃、カップヌードルの販売開始価格は100円と高額で、東京都新宿区の伊勢丹百貨店を皮切りに販売をスタートしたものの、あまり店頭に並ぶことはありませんでした。
しかし、消防署や警察署、自衛隊、病院など、夜勤の多い特殊ルートに営業をかけ、最初の大口顧客となったのが自衛隊員と警察官。1972年(昭和47年)2月の「あさま山荘事件」では機動隊に配られ、カップヌードルを食べる様子がテレビ中継で繰り返し流された結果、生産が追い付かなくなるほどの爆発的な売り上げを記録します。
発売当初の内容量(NET)は84gで、間の詳しい資料は残っていませんが、2000年(平成12年)には内容量77g(めん65g)に減っており、メーカー希望小売価格は155円と30年弱で55円アップ。輸入小麦の政府売渡価格が大幅に引き上げられた2008年(平成20年)には、麺を揚げる際に使うパーム油や包装資材の高騰を受け、1月にメーカー希望小売価格を155円から170円に引き上げた日清食品。
しばらく内容量は77g(めん65g)をキープしていましたが、2015年(平成27年)1月に180円、2019年(令和元年)6月に193円と値上げの変遷を辿り、同年10月の “謎肉増量” を機に内容量が78g(めん65g)に増えたものの、2022年6月に実施された価格改定で214円まで値上がりします。そして、2023年6月1日には236円に——。
発売当初のパッケージと比較して「NOODLE」の “ L(エル)が I(アイ)に見えないように” すこしだけ「L」の線を伸ばしたことを除き、50年以上ずっと同じデザインなので、それについては凄まじいの一言に尽きますが、販売価格の据え置きは不可能に近いこと。このペースで値上げが続いた場合、10〜15年後の「カップヌードル」における300円になっているかもしれません。
まとめ
寿がきや食品の改定価格率には5~15%と大きな振れ幅が生じていますが、2023年6月1日に実施される価格改定を平均すると、おおむね10%以上の値上げになるため、スーパーやドラッグストア、ディスカウントストアでの販売価格はもちろん、なかでもコンビニにおける変動は一見して明白かつ顕著に感じられると思います。そうですね、たとえば‥‥
標準サイズの「カップヌードル」をコンビニで購入した場合の税込価格は231.12円から254.88円に、大盛りサイズの「カップヌードルBIG」に至っては264.60円から292.68円に値上がりするため、なかなかの打撃。今後はコスパ重視のオープン価格とハイクラス系の二極化はもちろん、高付加価値製品のアプローチにも注目が集まることになるでしょう【author・taka :a(@honjitsunoippai)/ 大石敬之】